書評:中国化する日本
- 作者: 與那覇潤
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2011/11/19
- メディア: 単行本
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遅ればせながら話題の書籍を読みました。非常に読みやすく、且つ既存の固定観念が壊され、今の社会が新しい形で見えてくる良書だと思います。
著者のいう「中国化」は「最終的に落ち着く近代化」という意味で使われています。
1000年ほど前、日本は平安末期、今グローバルに広がっている社会の形が、そのミニチュア型として、中国の宗朝により実現されていました。世界に先駆けて中国で構築されていた社会の形は、1000年を経た今、世界の大きな形として姿を見せ始めています。一方で日本は、日宋貿易を行った平清盛を源頼朝が下して以来、独自の形で近世に突入し、江戸時代にその形を完成させ今にまで至るが、いよいよこの最終的に落ち着くべき形に変化を始めている。と、いうのがこの本の趣旨です。
この「中国化」というのは、一体どういう形の近世だというのか、ということは詳しくは本を読んでもらいたいのですが、主な要素は以下の5点です。
- 権威と権力が一致している
- 政治と道徳が一体化している
- 地位の上昇が一環している
- 市場ベースの流動的な経済
- ネットワーク化された人間関係
これを宋朝にあてはめるとこんな感じです。
- 皇帝以外の身分制と世襲制が打破され、皇帝が権威と権力を握る
- 朱子学思想に基づき政治が行われ、専制性が牽制される
- 科挙による統一的な官僚登用プロセスが採用される
- 移動の自由・営業の自由・職業選択の自由が行き渡り、自由経済が浸透する
- 「宗族」という父系血縁ネットワークが構築され広い個人的なネットワークが重視される
次に世界情勢にあてはめてみましょう
- アメリカの一人勝ち、一極集中の時代
- 就任間もないオバマ大統領にノーベル平和賞が贈られるなど、道徳と理念による牽制が行われる
- グローバルレベルでの実力主義
- 物流とITの発展により国を超えたビジネス展開が一般化
- ソーシャルの浸透により、より個人同士のネットワークが力を持つ
この5つの要素において、今の世界の形と、中国の宋朝時代に作られた形が非常に似ているというわけです。
次に江戸時代にあてはめてみましょう。
- 権威は天皇、権力は幕府。権威は将軍・大名、権力は役人・商人。
- 理念よりも空気
- 士農工商の身分制度
- 流通を規制した幕藩体制
- 家・村・藩に強くクローズされたネットワーク
そして旧態然とした日本社会に当てはめてみましょう
- 権威は政治家、権力は官僚。権威は役員、権力は社員。
- 理念よりも空気
- 女性が働きにくい社会。正規・非正規社員の格差。流動性の低い労働市場。
- 規制に縛られた/守られた産業
- 家・地域・会社に強くクローズされたネットワーク
著者は現代の日本を「長い江戸時代」と表現し、今、日本が世界で取り残されつつある現状の原因を分析しています。
最後に、変化が現れ始めた日本社会を見てみましょう
- 政治家では小泉・橋下、経営者でいえば孫・三木谷・ベンチャー経営者達に見られる強いリーダーシップ
- 憲法9条を核とした高尚なジャパニズムの提唱(これは著者提案)
- 専業主婦化を避ける女性、海外に労働力を求めだす企業
- 税制・環境を選んで国を移動するグローバル企業
- ソーシャル・ノマドによって個人のつながりが重視される
このように、善かれ悪しかれ世界標準の社会の形に日本も進んでおり、その流れに抗う向きもあるけれども、最終的には止められないものだと言っています。
どうもちょっと雑な論理展開は否めない感じはしますが、32歳(!)の若い社会学者が1000年の歴史を300ページにまとめて、大きな歴史観を見せてくれるのは純粋に楽しく読み進めることができました。本質的なところは真理を言い当ててるのではないかとも思えるので、是非おすすめです。