書評:アフォーダンス入門――知性はどこに生まれるか

アフォーダンス入門――知性はどこに生まれるか (講談社学術文庫 1863)

アフォーダンス入門――知性はどこに生まれるか (講談社学術文庫 1863)

アフォーダンスという概念は難しい。かのドナルド・ノーマンでさえ誤用していたのだから、我々素人には簡単に理解できないものなのでしょう。本書はそのアフォーダンスについて、デザインとは関係のない、そもそもの意味について説明している入門書です。文庫で買えば薄く、案外と読みやすい一冊ですが、捉えづらいアフォーダンスという概念のおおまかな姿を見るには適した良書と言えると思います。

 

本書には二人の主人公が出てきます。一人は進化論で有名な、かのチャールズ・ダーウィン

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ダーウィンはその生涯を閉じる前年に、なんと44年もかけた研究に基づいて「ミミズと土」という書籍を出版しています。ミミズが土を食し、糞をする行為が土を耕す行為と同等の意味を持っていて、何も変化が起きていないように見える土地であっても、長い年月をかけてミミズによって耕された豊かな土壌が積み重なっている、ということを証明した書籍です。

 

この本の中で、掘った巣穴を乾燥させないために、身近な葉などで穴を塞ぐ、ミミズの穴塞ぎの習性についての記載があります。ダーウィンはその観察の中で、ミミズには「知能」があると述べているのです。目も鼻も無いミミズが、知覚だけでこの穴塞ぎを遂行するその行為は、まさに知能なくしてはできないものと、驚愕を以て語られているのです。

 

単純に葉に触れたらそれをひっぱりこむような刺激への反応なのではないかというと、土の固さによって穴に差し込む葉の部位を、葉の固さに応じて選ぶ動きが観察されており、そう単純なものではない。紙のようなものを置いても、穴塞ぎに適した形に紙を溶かして使うなど、試行錯誤の域すら超えた動きが観察されており、単純な刺激に対する反応では説明しきれない様子から、それを知能によるものだとダーウィンを言ったのです。

 

そして二人目の主人公、ジェームス・ギブソンが、ダーウィンの死後からおよそ80年後に、この知能に「アフォーダンス」という名を付けるのです。

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ありとあらゆる生き物は、環境から得られた刺激を単純な信号のみとして扱っているのではなく、概念的な意味を付加して知覚されている。その生物に、あらゆる周囲のものが知覚を与えていることをアフォーダンスと名付けました。

 

ソフトウエア開発は、本来物質が持っているアフォーダンスを人の手で創り上げなければならないところに、本質的な難しさを持っています。アフォーダンスと聞くと、なにやら小難しい流行のバズワードのように感じるかもしれませんが、40年以上もミミズと土を観察してきたダーウィンに思いを馳せ、一度概念の基本に立ち返ってみるのも面白いかもしれません。本書はそれを助ける、最良の一冊だと思います。

誰のためのデザイン?―認知科学者のデザイン原論 (新曜社認知科学選書)

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ダーウィンのミミズの研究 (たくさんのふしぎ傑作集)

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