大連のエンジニアに感動

二泊三日の大連出張に来ています。オフショア先のエンジニアとの打ち合わせが目的。

オフショアというとどういうイメージを持つだろうか。安かろう悪かろう、というイメージを持つ人も少なくないはず。

確かに低コストのインパクトは絶大だ。私が一緒に仕事をしているソフトウェアベンダーの単価は日本の三分の一以下だ。同じコストで三倍の工数がかけられるというのは実際に仕事をしてみると頭で考えていたより大きな違いがある。コスト感覚の変換が求められる。

とある日本大手企業では ベンダーから工数見積もりを受け取る際にオフショア比率を指定するらしい。つまり10人月の見積もりを出したら三人月分はオフショア単価にしろ、ということだ。そういうコスト圧縮努力をしてこいと言っているわけだ。なるほどと思わせられる。

では悪かろうなのか。これは決してそんなことはないと感じる。技術力は決して低くない。品質管理能力も高い。開発速度も速い。コミュニケーションだって、向こうのマネージャーやコア技術者達は日本語が話せるので大きな問題はない。もちろんロケーションの問題があるのでコミュニケーション上、気をつけなければいけないこともある。でも本質的には日本のベンダーとやるのと変わらないのだ。

大きく違うのは、彼等が非常に前向きに、意欲的に取り組んでくれるということだ。日本のエンジニアにはとにかく守りに入りこものが多い。何を話していてもネガティブに受け取る。

一方で大連のエンジニアが、生き生きとしていて、積極的で、エネルギッシュな様を見ると、何か忘れていたものに気づかされる。打ち合わせが非常に楽しく有意義なものになる。

今回はさらに驚かされることがあった。今回の仕事には個人的なこだわりや強い想いがあって、社内でもいろいろな機会を利用してそれを話して来ていて、よくよく話すと理解してもらえるのだが、最初は不思議な顔される。それはそういうものだと思うし、特に違和感はない。しかし、今回、大連のエンジニアはそれを説明する前から理解していてくれたのだった。

理解していますと言われて、そうなのかと思っているわけではない。彼等は彼等で独自に背景を調査していて、その上で私のこだわりに共感を示してくれたのだ。その調査はまさに私がして来た調査そのものであり、一部、私が押さえていない範囲もあり、私の考えを補強してくれているところもあった。

もちろんこちらの資料は事前に渡しているし、概要も話している。でもそのこだわりについて具体的に説明したことはないのだ。資料から彼等が独自に気になったところを、独自に調査してディスカッションして理解に至っていたのだ。

なんと前向き!私は感動してしまった。しばらく仕事で感じたことのない感動を覚えた。

『開発は辛いことも多いから、プロジェクトの始まりにきちんと背景や意義を共有してからスタートするようにしているんです』と大連のマネージャーは話してくれた。ソフトウェア開発において背景の共有はとても重要だ。ドキュメントに落ちてこない有象無象の情報があり、それを共有できているかいないかはプロジェクト成否に大きく関わってくる。オフショアのロケーションが離れていることによって難しくなるのはこの点が大きいだろう。彼等もそれをよく理解していて、彼等なりに取り組んでいる。

こうなると空恐ろしくなるは、日本人エンジニアとしての自分の立ち位置だ。ソフトウェア開発においても破壊イノベーションは確実に起こっている。わたしたちが創り出せる付加価値はどこにあるのか深く考えさせられてしまった。

もちろんオフショアがすべてではないし、日本人エンジニアがすべて後ろ向きではない。大連の工場生産的なソフトウェア開発がいつまで続くかも分からない。インフレは進んでいるし、オフショアとしてはベトナムが後ろにつけている。

大きくめまぐるしく状況が変わりゆくこの業界で、自分はどうやって歩んでいけるだろうかと、深く考えさせられる出張となった。

秋風に襟を正す大連より。