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TEPPEI STUDIO

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第1回アゴラシンポジウムレポート


アゴラシンポジウム(第1回)に参加してきた。そのレポートを簡単に。


全体的に3部構成。第1部は、雇用問題や労働市場の硬直性についてといった、いわばシステムに焦点をあてた話題。第2部は、個人としてなぜ起業ができないのか、起業した人はどうしたのかという、いわば「人」に焦点を当てた話題。第3部は懇親会。といった構成だった。


はじめに断っておくと、私は起業家でもないし、起業の予定もない、ひとまずする気もない。起業というのはあくまでも手段に過ぎないと考えている。やりたいことをやるための手段のひとつであるし、起業するにもしないにも、それぞれリスクが付きまとってくる。シンポジウムに参加して、この考えがより一層整理され、強く認識でき自信を持つこともできた。


第1部では池田氏の進行の下、三人のパネラーの話を聞き、その後質疑応答を行うという形式だった。



一人目のパネラーは、城繁幸氏。富士通で人事を担当した経験を元に、各種雇用問題についていろいろ提言をしている人だ。代表作に「若者はなぜ3年で辞めるのか」がある。

若者はなぜ3年で辞めるのか? 年功序列が奪う日本の未来 (光文社新書)

若者はなぜ3年で辞めるのか? 年功序列が奪う日本の未来 (光文社新書)


城氏からの話は、基本的には、最近出版された「たった1%の賃下げが99%を幸せにする」の内容をダイジェストで紹介するという形だった。

たった1%の賃下げが99%を幸せにする

たった1%の賃下げが99%を幸せにする


ちなみに、この書籍の中や、今回の話の中でも、年功序列や長期雇用を前提とした「職能給」を辞め、同一労働同一賃金の原則に則った「職務給」が世界標準で、これに転換していくべきだという提言があるが、私の会社は今度この「職能給」を辞め、「職務給」になるらしい。職能給とのハイブリッド型だとはいうが、なぜ時代に逆行しないといけないのか。ますます、古い体質の会社になろうとしているのだなと実感し、憂鬱な思いを抱いた。



二人目のパネラーは、月刊アスキーを出版する、株式会社アスキーの創業者の、西和彦氏。経営の傍ら、マイクロソフトビル・ゲイツと供にMS-DOS、Windowsの開発に従事した経験があったり、近年は大学での研究・教育活動を行ったりしているらしい。


この人の話は、もうめちゃくちゃだった。雇用問題とかのシステムの話をするって言ってるのに、「システムを変えようとするのはむなしい。夏は暑いんだ。夏を涼しくしようとしても無理。夏は暑くて当たり前だと考えるべき。個人がどう考え、どう行動するかを考える方が楽しい」と言い出して、大うけ。とっても面白くてよかったが。


その後の質疑応答に、7年前に西氏の話を大学の講義で聞いて、触発されて起業したという方が名乗り出て、西氏の「起業しちゃえよ。絶対なんとかなるから。」とあった話について、「西さんの言うことは本当なんですよ!」と話をしてくれて、会場は大盛り上がりになった。彼は、既に2〜3億の資産があって、会社もIPO直前の状態なんだという。



三人目のパネラーは、慶応技術大学経済学部教授の池尾和人氏。池田氏と共著で、『なぜ世界は不況に陥ったのか』を出版している。

なぜ世界は不況に陥ったのか 集中講義・金融危機と経済学

なぜ世界は不況に陥ったのか 集中講義・金融危機と経済学


池尾氏の話で面白かったのは、日本人はリスク嫌いという話題に関して、「行動からリスク許容度を算出する研究は、昔からよくやられているが、アメリカ人より日本人がリスク嫌いという結果は、突出したものとしては出ていない。若干の差はあるが。」と話してた。

つまり、日本人がリスク許容度が低いのではなく、日本で起業するといったことに対するリスクが、アメリカよりも大きいということなのだろうか。池尾氏は、リスクをとった後、それを最後まで抱え込まなければいけない社会システムが問題だと指摘した。リスクを抱え込むのではなく、とったリスクをすぐに誰かにパスできればいいのだ、と。


第2部は、4人のパネラーが登場した。

一人は、Google日本法人の名誉会長を勤める、村上憲郎氏。村上氏からの話は、要するにGoogleの紹介についてで、あまり面白い話は特になかったが、質疑応答の中での村上氏の言葉が印象的だった。


村上氏は「僕は転職はしていないんですよ」と言う。もちろんGoogle叩き上げではなく、最初は日立電子株式会社に勤めていたキャリアを持つ。村上氏は「転社はしましたけどね。」と続ける。つまり、一人のプロフェッショナルとして仕事を続ければ、会社に勤めようと起業しようと、転職しようと一緒だというのだ。これは大いに共感を得た。


例えば、芸能人が所属事務所を変えるという話はよく聞くが、我々としては転職したとは思わないだろう。芸能人を辞めて、パン屋を開くというのであれば、転職と感じるが。


村上氏も、1エンジニアのプロフェッショナルとしての仕事は貫き通していると言っており、その志は、起業する/しない、転職する/しないに関わらず、もっとも重要なことだと思う。だから、起業も手段でしかないのだ。



二人目は、森航介氏。みずほ銀行を勤めた後、株式会社フィルモア・アドバイザリーを設立。今は、Vizooというサービスを中心に事業を行っている。


森氏はいかにも銀行出身といった堅実さを漂わせていて、「失敗に対する準備」という話は非常に興味深かった。


森氏は、お金関係の話で、できるだけ巻き込む人を少なくしているという。アメリカでは、3Fからお金を借りるなとよく言うそうで、つまり、Friend、Family、Foolを3Fと言っている。Foolとは、レベルの低い金貸しという意味で、要するに、ちゃんとしたプロのVCからお金を借りるようにしろということらしい。そのほかにも、3年経って成功しなければあきらめるといった、成功期限を設けるだとか、最悪一人でフリーでも食いつないで行けるという自信を持った状態で起業するとか、地に足がついた意見が聞けて、興味深かった。



三人目の小川浩氏は、株式会社モディファイのCEO。小川氏はとても勢いを感じる方で、その経歴も面白い。元々は商社に勤めていたそうで、そこでマレーシアに駐在に行っていた際に、上司と喧嘩して、退職。そのままマレーシアで起業したというツワモノだ。その後、ITバブルがはじけたために、会社が倒産。倒産後、4年間日立製作所に勤め、その後、サンブリッジEIR(客員企業家制度)を利用して現在の会社を立ち上げている。


倒産経験を持つという異色の存在で、非常に話も面白かった。倒産時はやはり相当な修羅場らしく、しばらくは精神的にも大きなダメージを持った状態だったが、やはり起業といったダイナミックなエネルギーを自分の中で抑えることができなかったという。そこで、EIRという制度を利用したそうだ。これは、起業経験のある人を社員にして、社員のまま、別の会社の起業を行うというものだそうで、当然サラリーマンのままなので、起業が成功したとしても、それほど大きな報酬は得られないらしい。しかし、「金の問題じゃない」という。不自由の無い生活が送れるのであれば、金よりも、やりたいことをやれる人生を選びたいと考えると話してくれた。



4人目は、渡部薫氏。大学を中退して、起業するという変わり者だ。


質疑応答の中で、起業に伴うリスクをどう乗り越えたのかという質問があったが、渡部氏は「リスクの捕らえ方がもはや違う。起業しないで、既存企業に身をうずめること自体にリスクを感じた」と答えた。


まさしく同感。起業には誰もが納得できるリスクがあるが、既存企業に残ることにも大きなリスクが伴う。それこそ自分の意思や努力とは関係なく業績が悪化して、給与が悪くなる可能性だってあるし、やりたいことがやれないという可能性も高い。やりたいことを企業内でやろうとすると、人間関係の軋轢が生まれる可能性もあるし、変に目立ってしまうと、閑職に飛ばされるかもしれない。かといって、流されるままにすると、つまらない仕事になるかもしれないし、自分の意思とは違う処遇を受ける可能性もある。


要は何をリスクと感じるかなのだ。



第3部は懇親会。


たまたま、起業されている方々とお話をすることができた。


第1部・第2部の話を聞いて感じたまとめとして、要はいかにプロフェッショナルであるか、ということだと感じた。村上氏の言葉のように、自分が志す仕事をしている間は、転職ではなく、会社を変わったとしても転社でしかない。会社に属するのも、会社を起すのも手段でしかなく、やりたいことがあるなら、どこでもやれるはずだ。もちろん起業には大きなリスクを伴うが、会社の中で過ごすにも大きなリスクが伴うのだ。どのリスクなら自分は許容できて、どれなら許容できないのか考え、リスクをとっていけばいいのだ。西氏の話の中で、倒産と起業は社会の新陳代謝だと言っていたが、それは半分間違いだと思う。既存企業の中でも、新しい仕事が生まれれば、会社の内外を巻き込んで、人が動く、それでも十分な新陳代謝だし、よっぽどの即効性があるはずだ。


私は、大企業のシステム子会社に働く人間だ。大企業をユーザとするシステムを企画・開発している。これを失うのは大きなリスクなのだ。なぜなら、リリースしたとたんに何万人というユーザが付くし、そのユーザからのリアクションや要望をダイレクトに聞くことができる。このフィールドでまだまだやるべきことはあると感じる。


もちろん、大企業病にもちゃんとかかっている企業だから、ものめずらしいことを言うと、白い目で見られる。毎度毎度うんざりするが、彼らを納得させるのと、起業して市場に認められるのと、苦労をすることでいったら一緒だろう。


懇親会は、起業した人と、していない人との違いはあったが、変化を起したくて戦っている人と、想いを共にすることができる、心の友と出会うことができたと感じている。


アゴラでは起業一辺倒だけでなく、社内でのアクティブな動きを応援する活動もあってもいいと思った。